熱処理について
包丁の熱処理
包丁の熱処理には、焼鈍、焼入れ、焼戻しなどがあります。
焼鈍(焼なまし)
『焼 鈍(焼なまし)』とは、金属材料が加工工程で不安定な状態になっている時、それを熱処理で安定な状態にすることです。ある温度まで加熱しその後徐冷する(ゆっくり冷やす)ことで焼鈍します。焼鈍された状態では、その金属が最も安定した状態になるだけでなくその金属が柔らかい状態となります。
この焼鈍の時、鋼の中の炭化物(Fe3C)を微細な球状にする組織調整を 「球状化焼鈍」と言い、高炭素鋼の焼入れ前の材料には必要な熱処理です。
焼入れ
鋼の硬度や強度を増加させる為に、変態点以上の適当な温度まで加熱した後、水、油などに入れて急冷する熱処理の事です。(変態点とはそれ以上加熱すると金属の組織が変化する温度です。)
変態点は鋼の成分によって違いますので、焼入れ温度を一概に記す事が出来ませんが、ステンレス鋼で1,050℃前後、ハガネで800℃前後が目安になります。焼入れの場合重要なのは、鋼の種類に適した温度管理です。加熱温度、及び加熱時間・保持時間、冷却速度(冷却液の温度を一定に保つ)を一定にする事が重要です。
鋼の温度管理を十分行うことにより、包丁の硬度のバラツキを無くし、良質な焼入れ組織が得られます。焼入れによって得られる硬度は、焼入れ前に比べ3~4倍も上がります。
サブゼロ処理(深冷処理)
学術的には、材料中の炭素量が約0.8%以上の場合、焼入れの際、常温までの冷却では焼きの入った組織(マルテンサイト)に完全に変化できません。そこで高炭素量の材料は、焼入れで一度常温まで冷却を行い、続いて速やかに液体窒素等を使用した冷却処理を行います。この2度目の冷却処理をサブゼロ処理と言います。当社では、約-70℃に冷却します。
(サブゼロのサブは、~以下の意味で、ゼロは数字の0、合わせて『0℃以下の処理』の意味になります。)
焼戻し(やきもどし)
包丁は硬いだけでは、割れや折れ、刃こぼれが簡単に起きてしまいます。多少硬度を犠牲にしても、これを防止し、研ぎやすく粘りのある包丁が望まれます。この粘りを持たせる熱処理を「焼戻し(やきもどし)」と呼びます。
焼戻しには加熱温度の違いにより、高温焼戻しと低温焼戻しの2種類あり、前者は550~650℃、後者は150~250℃で行います。それぞれの処理後の組織は異なり、性質が違います。 包丁の場合、後者の低温焼戻しが行われ、焼入れ及びサブゼロ処理を行った鋼材を、約180℃で1時間前後加熱し、徐冷します。
線路のレールやプレスの金型も熱処理を施す鋼です。
しかし、包丁は包丁としての用途に於いて、最良の性質を持たせる事が大切です。各熱処理で刃物鋼独特の処理を行っています。つまり、単に硬ければ良いという事でなく、包丁の品質を左右する切れ味、粘り強さ、耐摩耗性など様々な性能を向上する為、各包丁メーカーでは長年の経験を活かしながら、研究開発、技術力の向上を行い、各材質に合った独自の熱処理方法で、微妙な熱処理操作を行っています。
包丁の熱処理は本当に微妙な加熱温度の違いや、冷却液の温度や種類の違いで焼入れ組織が変わってしまうほど微妙なのです。