刃付け
ご年配の方の中には、専門店で包丁を求める折りに、店の人が刃付けと言って、お客様の前で包丁に砥石を当てているのをご覧になった事があると思います。
店に並んでいる包丁の殆どは、機械による鈍角の刃付け(標準刃付け)のものです。
本職の方は新しい包丁を購入したとき、使用する前に自分で研ぎ直し(本刃付け)をします。
つまり使用目的に合った刃に研ぎ直すのです。
やわらかい物だけを切るのであれば、鋭角な刃に研ぎ直し切れ味を増します。
固い物を切るのであれば、鈍角な刃に研ぎ直し割れにくくします。
また、片刃に研ぎ上げたり、両刃でも表裏面の研ぎ方を微妙に変えたり、刃先の箇所によって研ぎ角度を変えたりして、自分の使い易い包丁にします。
メーカーでは色々な使用目的を想定して刃付けを行っていますので、一般にはこのまま使用して十分だと思います。
時折、当社にも刃欠けが生じたと苦情が寄せられる中に、本職の方でもしないような、極めて鋭角に研ぎ上げられた包丁がありますが、もう少し包丁の性質を理解し、可愛がって頂きたいものです。
包丁の研ぎ角度について説明します。
一般に研ぎ角度が鋭角なほど切れ味が良いと理解されていますが、理解の仕方に誤解があるように思われます。 鋭角な刃先の包丁は、『切れ味について』の項で説明がありますが、包丁が切断物に割り込んで行く時の抵抗が少ない為に、人間は切れ味が良いと判断しているだけで、物を切断する能力には関係ありません。
例えば、薄い物を切る場合、包丁が割り込んで行く距離が殆どない為、鋭角な包丁でも鈍角な包丁でも、切れ味は変わらないという事です。
事実、刺身包丁の最先端部は、止め小刃と言って研ぎ角度が45度程度の研ぎ幅の小さい刃付けがしてありますが、切れ味は抜群です。(一般の家庭用万能包丁は、25度程度の研ぎ角度で刃付けされています。)
研ぎ角度は、鋭角なほど摩擦抵抗が少なく切れ味が良いのですが、刃先が薄いために固い物(かぼちゃや冷凍品など)を切ったり、力を入れてこそいだり、こじる様な使い方をされますと欠けてしまいます。
一般に洋包丁の場合、25度程度に刃付けされたものが比較的切れ味が良く、刃欠けも起こりにくくなっています。
実際に刃研ぎをされる場合は、『包丁の手入れ』の「●包丁の研ぎ方」の項を、参照して下さい。
また、研ぎ角度をご自身で確認される場合は、研ぎあげた包丁を鉛筆の持つ所に寝かせて当て、前後に動かしながら徐々に包丁の当てる角度を立てていきます。
すると、ある角度の時に包丁が鉛筆に食い込み、前に動かなくなります。
この時の鉛筆と包丁の成す角度が、研ぎあげた角度です。
同様に、包丁の反対面を調べます。
そして、裏表の研ぎ角度を足すと包丁の刃先の角度が分かります。