良い刃物とは
何を置いても良い包丁の第一条件は、切れ味の良さです。
包丁は、材質、鍛造温度、焼入れ、焼戻し、加工時の研磨焼けなど製造中のいろいろな条件が悪ければ、いくら研いでも良い刃は付きませんが、最初良く切れた包丁であればその心配はまずありません。
次の条件は切れ味の持続性です。
いつまでも研がないで切れ味が続けば申し分ありません。
通常、材料に含まれる炭素量が多い材料ほど硬度が高く入り、耐摩耗性に優れます。
但し、材質の適正な熱処理を無視して硬度を高くしたものは、粗悪な焼入れ組織になり粘り強さに欠けます。
また、同じ硬さであっても材料の化学成分や熱処理方法が異なれば変わってきます。
従って、成分表や硬度の数値は、包丁の評価の参考にはなりますが、それだけで判断は出来ません。ご注意下さい。
成分表に関して言えば、大まかな性質は分かりますが、これに載っていない、酸素、窒素、水素等の混入量も材質の良否に関係します。
次の条件は研ぎ易さです。
切れ味が低下した包丁を研ぐ際に、すぐ鋭利な刃が付く包丁、つまり研ぎ易い包丁が良い包丁と言えます。
しかし、常識から判断すれば、すぐに研げる包丁は、それだけ耐摩耗性に劣るという事なので、切れ味の持続性が良くないとも言えます。
そういった傾向はあるものの、実際には、研ぎ易い割には切れ味の持続性が良い包丁があります。良質な材質を使い、最良の熱処理を施した製品が、このような本当に良い包丁になります。
鋼とステンレスとを比べた場合、鋼の方が格段に研ぎ易いです。職人さんが鋼の包丁を使用するのは、すぐに錆びるという欠点はありますが、研ぎ易さが大きな要因であると思われます。
さて、研いでしっかりと刃を付けるには、包丁を砥石に当てた時に、ピッタリと合わなければ、一様な刃は付きません。刃線が曲がっていれば、出っ張っている所だけ強く砥石に当たり、凹んでしまうからです。
また、反対側(裏側)は砥石に当たらないから全く刃が付きません。購入時に、刃先を上にして柄もと(柄尻)に目を近づけて刃先を見透かすと狂い(ひずみ)が分かります。
また、刃先を横にして見透かすと刃線の曲がりが分かります。
しかし片刃の包丁(特に刺身、蛸引きなどの長いもの)の場合は、購入当初まっすぐでも、時間が経つと曲がりが出てくる事があります。その点、洋包丁はまず大丈夫でしょう。
但し、ヨーロッパでは包丁の研ぎに、砥石を使わないでヤスリ棒を使う習慣がある為に、曲がり(反り)をあまり気にしません。外国製品を購入される方は、特に曲がりにご注意下さい。
更に片刃の和包丁は裏すきと言う問題があります。包丁の裏側を砥石に当てた時、包丁の周囲がぴったりと砥石に接するのが理想です。へこみを調べる為には、定規(不透明なもの)を刃の裏にのせて光りを透かし、刃先側とミネ側が当たっているか見れば分かります。
良い包丁の条件はまだまだあります。
刀身の厚み(材料の厚み)、重量、バランス(重心の位置)、口金の有無や取付け方、ハンドルの材質や形状と取付け方などです。
店頭で購入の際、実際に手に取って確認できない場合がありますが、最低でも刃先に肉眼で分かるヒビや刃こぼれが無いものを選ぶ程度の事は、必ず行って下さい。
失敗が一番少ないのは、包丁専門店や金物店で店の人に要望を伝え選んでもらい、自分の手に取って確認する事です。