錆(サビ)について
地球上の殆どの金属(貴金属を除く)は酸化した状態(錆びた状態)で発掘されます。これは、この状態が一番安定した状態だからです。
鉄も例外ではなく、鉄鉱石等酸化した状態で発掘されます。そこから酸素を取り除いた鉄が鋼の原材料となります。従って包丁を空気中に放置すれば、自然に錆が出来るのは当然です。
空気中には酸素及び水(水蒸気)が存在します。まず、鉄の表面に水蒸気が触れると、水の膜をつくります。
(※ かなり薄い層です)
その膜に、酸素が溶け込み、その酸素と鉄とが化学反応を起こし酸化鉄(錆)になります。
また、鉄の表面が汚れていると水の層が酸性になり、この反応を促進します。
従って、錆の発生を押さえる為には、表面をきれいにし、乾燥した所に置いておく事が有効です。
また、鉄の表面に椿油などの油を塗布し、空気(酸素)に触れさせない方法も有効です。
(包丁用の防錆油も販売されています。)
錆は金属の種類や、その金属の置かれている周囲の状況によって違います。
金属の種類による酸化物(錆)の違いは色の違いとなって現れます。
アルミの表面の白っぽい色は酸化アルミの一種ですし、銅の錆は古い10円玉に見られる様に緑青(ろくしょう)と呼ばれ緑色をしています。
ステンレス包丁の表面も錆びていないように見えますが、実は材料の中に含まれているクロムと鉄の水酸化物が、1~3nm(ナノメートル)の厚みで存在し、錆びているのです。
錆の厚みが薄すぎて透明に見えるのです。
(1nm=1/1,000,000mm)
このような金属の表面に酸化した金属の被膜(酸化被膜)が出来ると、空気中に放置しても、その内部が酸化しにくくなります。つまり安定した状態となるわけです。
しかしこの酸化被膜も、塩分や酸やキズに対して充分と言える強度ではなく注意が必要です。
(アルミの弁当箱に梅干しを入れ続けると弁当箱の表面にブツブツが出来るのは塩分、酸がアルミの酸化被膜を破る例です。)
鋼の包丁にもアルミやステンレスほど強力ではありませんが、酸化被膜をつくる事が出来ます。
鉄の錆は空気中及び水の中に溶け込んだ酸素(O2)と、水分(H2O)が作用して生ずる赤 錆 →【水酸化第二鉄 Fe(OH)3や酸化第二鉄Fe2O3を中心とした錆】
と、赤錆が塩類を含む水溶液に侵されたりして生ずる黒 錆→【マグネタイトFe3O4を中心とした錆】 の2種類があります。
鋼包丁の表面に後者の酸化被膜”黒錆”(薄いネズミ色)の被膜が一度出来ると、錆の進行は抑えられます。
酸化被膜の水酸基OHに対する強度は、その鋼の性質や包丁の製造方法によって違います。鍛造包丁は、板抜き包丁に比較して、組織の微細化、均一化がより進んでいるため、酸化被膜の水酸基に対する強度が大きく、赤錆の発生の止まりが早いと言われています。
赤錆は放置しておくと、包丁の内部へ錆が進行しますので、赤錆が発生したらすぐ除去して下さい。
(『包丁の手入れ』 の項を参照して下さい)